散歩道 トップページ > カラーテレビ事件(6)




カラ−テレビ事件(6) <街の灯り >

    大野さんは、家で待っている奥さんのことを思いだしました。
    ゆうべ帰ってから、電気屋での賭けのことを話すと、
    「えっ、カラ−テレビがもらえるの。おとうちゃん頑張ってね」
    とたいそう喜んだのでした。
    「かあちゃん、絶対に持って帰るからな」
    大野さんは、そうつぶやくと電気屋さんにかまわず歩きだそうと
    しました。

    電気屋さんは、大野さんにすがりつきました。
    「じゃまするな、はなせ」
    「お願いしましす。勘弁してくださいよ」
    両手を合わせて懇願します。
    見ると、ほとんど泣きそうな顔をしています。
    一本気ですが、もともと気の優しい大野さんは、電気屋さんの
    なさけない姿をみて急にかわいそうになりました。

    そして、カラ−テレビを道端に降ろして云いました。
    「わかった。残念だがテレビはあきらめるよ」
    電気屋さんは、
    「すみません。ありがとうございます」
    と、何度も頭をさげました。
    しかし、電気屋の奥さんは、余程くやしかったのでしょう。
    大野さんの足元に3万円を叩きつけると、両手で顔を覆って
    泣きだしました。
    電気屋さんは、泣きじゃくる奥さんをなだめながら、逃げるように
    帰っていきました。

    同僚たちは、電気屋の軽トラックを見送りながら、
    「さすが大野さんだ。こんな所までよく運んだよ」
    「しかし、カラーテレビはおしかったな」
    口々に大野さんの健闘を労いました。
    「大野さん、よく頑張ったな。お疲れさん」
    と云って、それぞれ帰っていきました。

    「カラ−テレビは駄目だったが、この金でかあちゃんに服でも
    買ってやろう」
    大野さんは、奥さんの喜ぶ顔を思い浮かべていました。
    暑かった夏の日もようやく暮れて、街には灯りが燈り始めて
    いました。

    − おわり −

2004.04.01


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